一次相続で配偶者の税額軽減に頼りすぎた結果、二次相続で高額納税!後悔しないための対策
相続は一度で終わりではなく、配偶者のいるご家庭では「一次相続」と「二次相続」という二段階で発生することが一般的です。多くの場合、一次相続では「配偶者の税額軽減」という制度を利用することで、相続税を大幅に抑えることができます。しかし、この制度のメリットだけに注目しすぎると、将来的に発生する二次相続で思わぬ高額な税金を納めることになり、後悔するケースが少なくありません。
配偶者の税額軽減の落とし穴:Aさんのケース
Aさん夫婦は、夫が亡くなり、妻と2人の子どもが相続人となりました。夫の遺産は自宅不動産と預貯金、合わせて1億5,000万円ほどでした。Aさんは税理士に相談したところ、「配偶者の税額軽減」を利用すれば、妻が1億6,000万円まで相続しても相続税はかからないと説明を受けました。
この話を聞いたAさんは、一次相続では妻が夫の財産のほとんどを相続し、子どもたちは最小限の相続にとどめました。結果として、一次相続でAさん家族が支払う相続税はゼロに。Aさんは、「これで安心だ」と胸をなでおろしました。
ところが、その数年後、妻が亡くなり二次相続が発生した際、状況は一変します。妻の財産は、夫から相続した分に、自身の預貯金が加わり、合計で1億8,000万円に膨らんでいました。二次相続では、妻がいないため「配偶者の税額軽減」は利用できません。また、法定相続人の数が一次相続時よりも減るため、相続税の基礎控除額も少なくなります。結果として、残された子どもたちは、一次相続時には想像もしなかった高額な相続税の納税に追われることになり、納税資金の準備に苦労する事態となりました。
なぜ二次相続で高額納税になってしまうのか
Aさんのケースのように、一次相続で配偶者の税額軽減を最大限に利用し、配偶者の財産が大きく増加すると、二次相続で以下のような問題が発生しやすくなります。
- 配偶者の税額軽減が使えない: 二次相続では、被相続人(亡くなった配偶者)に配偶者がいないため、配偶者の税額軽減の特例が適用されません。これにより、一次相続時に比べて相続税の負担が直接的に増加します。
- 相続税の基礎控除額が減る: 相続税の基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。一次相続では配偶者も法定相続人となるため基礎控除額が多くなりますが、二次相続では配偶者がいない分、法定相続人の数が減少し、結果として基礎控除額も少なくなります。控除額が減少すれば、課税対象となる財産額が増え、相続税も高くなります。
- 相続財産が高額になる: 一次相続で配偶者が多くの財産を相続すると、その配偶者の財産は自然と増加します。そのまま生前対策をしないと、二次相続時にはかなりの高額な相続財産となり、その分相続税も高額になります。
これらの要因が重なることで、一次相続では相続税がゼロだったにもかかわらず、二次相続で多額の相続税が発生するという事態が起こるのです。
後悔しないための具体的な対策
二次相続での失敗を避けるためには、一次相続の段階から二次相続を見据えた対策を講じることが重要です。
1. 遺産分割の工夫で配偶者の取り分を調整する
一次相続の際、配偶者の税額軽減を使いつつも、配偶者が相続する財産額を必要以上に増やさない工夫が必要です。例えば、配偶者の生活費として十分な財産を確保しつつ、子どもたちにもある程度の財産を相続させることで、二次相続時の配偶者の財産額の増加を抑制できます。ただし、配偶者の生活資金を圧迫しないよう、慎重な検討が求められます。
2. 生前贈与を計画的に活用する
二次相続までの期間が比較的長い場合、配偶者が存命中に計画的に子どもや孫への生前贈与を進めることが有効です。贈与税の非課税枠(年間110万円)を活用した暦年贈与や、教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与など、様々な贈与制度があります。これにより、配偶者の財産を減らし、二次相続時の課税対象財産を圧縮することができます。ただし、相続開始前3年(または7年)以内の贈与は相続税の課税対象となる「持ち戻し」の規定があるため、早めの対策が重要です。
3. 生命保険を納税資金対策として活用する
生命保険は、契約形態によっては相続税の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を活用できるため、相続財産を圧縮しつつ、受取人が直接保険金を受け取ることで、相続税の納税資金を確保する有効な手段となります。二次相続を見据え、配偶者を被保険者とし、子どもを受取人とする保険契約を検討することで、二次相続時の子どもの納税負担を軽減できます。
4. 養子縁組を検討する
養子縁組をすることで、法定相続人の数を増やすことができます。これにより、相続税の基礎控除額が増加し、生命保険金の非課税枠も拡大します。ただし、相続税法上、実子がいる場合は養子を1人まで、実子がいない場合は養子を2人までしか法定相続人として認められないなどの制限があります。また、養子縁組は家族関係に大きな影響を与えるため、慎重な検討と家族間の合意が必要です。
5. 不動産評価の減額特例を検討する
自宅の土地などには「小規模宅地等の特例」が適用される場合があります。この特例を適用することで、土地の評価額を最大80%減額することができます。この特例は、配偶者が相続した場合に適用されることが多いですが、二次相続時にも要件を満たせば適用可能です。また、不動産を賃貸物件として活用することで、その評価額を圧縮できる場合もあります。
専門家への相談が必要となるケース
二次相続対策は、一次相続の状況や家族構成、財産の種類や規模によって最適な方法が異なります。以下のような場合は、税理士や弁護士などの専門家への相談を強くお勧めします。
- 相続財産の総額が大きく、相続税の申告が必要になる見込みがある場合。
- 不動産や非上場株式など、評価が複雑な財産がある場合。
- 家族関係が複雑で、遺産分割で揉める可能性がある場合。
- 二次相続まで見越した具体的なシミュレーションや、最適な対策案を検討したい場合。
- 一次相続時に、配偶者が多くの財産を相続している場合。
専門家は、個々の状況に合わせて、一次相続と二次相続を合わせたトータルでの税額をシミュレーションし、最も効果的な対策を提案してくれます。
まとめ
一次相続の際に配偶者の税額軽減を最大限に活用することは、その時点での相続税負担を軽減する有効な手段です。しかし、それだけに目を奪われ、二次相続への対策を怠ると、将来的に大きな後悔を招く可能性があります。大切なのは、一次相続の段階から、将来の二次相続まで見据えた長期的な視点で、相続対策を計画することです。
今回ご紹介した失敗事例から学び、ご自身の家族構成や財産状況に合わせて、遺産分割の工夫、生前贈与、生命保険の活用、養子縁組、不動産の評価減対策などを検討してみてください。そして、少しでも不安な点や複雑なケースがある場合は、ためらわずに専門家に相談し、後悔のない相続を実現するための具体的なヒントを得ることが重要です。早めに準備を進めることで、大切な家族が将来困ることなく、スムーズな相続を迎えられるようになります。